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2010/09/15

大阪のおっさん、黒部で死ぬ思いする。(1)

 と書いてしまうと少々大袈裟ですが、この日はこの旅のうちのメインとも言えそうな日でした。

◆9月6日(月)
 この日は今までとは違い、早くから動き始めます。8時前の欅平行きで出発。今日の目的地は水平歩道、目指すは大太鼓です。

 水平歩道をご存じない方に…。水平歩道とは、黒部第3発電所・仙人谷ダムなど、黒部川流域の電源開発の資材運搬用に作られた歩道(現在は登山道)のことです。道といっても、狭隘な峡谷を形作る岩盤をコの字に穿って作った、幅50cmから1m程度の狭い道で、200mほどの断崖上を通るものです。その名のとおり、道は1000mの等高線に沿ってほぼ水平に伸びるため歩きやすいのですが、前述のように片側が崖であり、踏み外すと数100m落下してしまうことから、なかなかに緊張を強いられる道であるとのこと。

 かような危険な場所を訪れてみようと思い立ったのは、吉村昭氏の小説「高熱隧道」を読んだからでした。興味を持たれた方は実際に小説を読んでいただくとして、この小説に出てくる黒部の厳しい自然、そしてそんな自然に晒される水平歩道(小説中は「日電歩道」という名で出てきます)と、小説の舞台となったところとはどんなところなのか、という興味を持ったからでした。

 以来、ことあるごとに「水平歩道行かへん?」と無差別的に同行者を募集してきたのですが、そのような危ない道、なかなか行ってくれる人もなく、かといってこのまま待っていると体力的にきつい年齢になってしまう…。ということで今回、意を決してやってきたわけであります。好奇心、恐怖心に勝つcoldsweats01

 今日の目的地がこんな感じですので、トロッコに乗っているうちも気がそぞろになりがちなのですが、黒薙を出て初乗車の区間に差し掛かると沿線の素晴らしい景色が目を奪います。

P1000420

 素晴らしい自然の造形・仏石。仏様に似ていることから、頭巾などがかけられています。その昔、黒部に入山する人は、この石に手を合わせたとか。神妙な面持ちで眺めます。

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 そして気になる業務施設・冬期歩道。少し分かりにくいのですが、線路端のコンクリート部分の中は空洞になっていて、道が通っています。かなり高さが低いのですが、これが終点の欅平までずーっと続いています。これは冬期に鉄道が運休になったとき、保守等の都合で作業の方が通る道だそうです。中腰で20km、仕事とはいえ頭が下がります。

 黒薙を出て、笹平・出平・猫又と工事専用駅が続きます。猫又付近で、黒部川の対岸に黒部川第二発電所がその威容を現します。

P1000435

 その役割はもちろんのこと、建築物としても価値のあるものだそうですね。

 続いて旅客駅の鐘釣。今回は降りるチャンスに恵まれませんでしたが、駅前の雰囲気は降りてみたい衝動に駆られます。

P1000445

 昔の長野電鉄湯田中駅のように、安全側線になった形の線路に頭を突っ込んで停車するトロッコ。出発するときはスイッチバックします。如何に平地が狭いかを表すひとコマだと思います。宇奈月を出発して1時間15分、終点・欅平駅に到着しました。いよいよここから歩きです。

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 欅平駅に併設する黒部川第三発電所。この発電のためのダム・仙人谷ダム建設のために水平歩道は作られたんですよね。ダムと発電所が割と離れていることが意外でした。

 さてその水平歩道、入口は駅のすぐ横で、恐ろしいほど近い。登り口は便利に作られています。

P1000457

 9:27 水平歩道へ通じる登り口から出発。横では「欅平インフォメーションセンター」が建設中で、入口の階段は仮設ですsweat02でもって、水平歩道は標高1000mの等高線に沿って走る道。ここ欅平は標高599m。1000m-599m=401m。この標高差400mをジグザグに登っていきます。

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 少し分かりにくいですが、水平になるまではこんな感じ。鬱蒼と茂る森の中、かなりの急坂で登っていきます。ガイドブックなんかにはこの区間所要40分とか書いてあるんですが、40分じゃあとても無理!少しのぼっては小休止を繰り返します。

 登山道に入ってしばらくしたところで、第一すれ違い人発見!2人グループで、この時間にここですれ違うには、阿曽原温泉を5時くらいに出たのでしょうね。阿曽原温泉、行きたかったのですが…。結構悩んだんですよね。予約するかどうか。ただ、未踏の危険な道をどこまで進めるか見当もつかず(今日の大太鼓も、あくまで「行ければ」という目標でしかないわけで。)、予約をしたわ行けなかったわとなると大変なことになります。後から聞いた話ですが、ここは山小屋なので、当日キャンセルでもキャンセル料は発生しないとのことですが、それにしてもキャンセルの電話、ケータイでかけようにも恐らくは圏外…。皆さんどうしてるんでしょうね。と考えるうちに、一番迷惑をかけない方法で…ということで折り返しに決めたという経緯があったんですよね。もし今回、無事に大太鼓まで行って帰ってこられたなら、次の機会は阿曽原温泉に泊まってみよう、と思いました。

 ちなみにこの水平歩道、欅平から阿曽原を通り、仙人谷から旧日電歩道と名を変え、最終的には黒部ダムに通じています。行った日は仙人谷から黒部ダムまでの間はまだ整備中で、この区間が開通するのは例年10月頃とのこと。11月頃には雪で通れなくなるので、黒部ダムまで歩いていけるのは本当に限られた期間だけなんですね。こんな短期間しか通行できず、かつ毎冬雪崩でズタズタにされても道を再整備するのは、関電がこの地域で電源開発をするかわりに「この道を登山道として毎年整備する」という条件を国との間で交わしたためだとのこと。なので毎年何千万円もかけて整備されるそうです。

 さて登山道をひたすら進みます。急な個所にははハシゴがかけられていたり、コンクリ製の階段が設けられていますが、あまりに急すぎて、四つん這いで進んでしまうところも。なかには石を踏み台にして登るところもあり、行きも大変ですが帰りのことも考えるとほんと思いやられますsweat02

 登ることしばし、ンコ発見!変な話ですが、大きいです。で、しかも新しい。

Kuma

 …ですか?そういえば入口を入ってすぐに「熊注意」の看板がありましたが、欅平の駅はすぐそこですし、すでに一度人とすれ違ってたのでクマの心配はこの時点ではしてませんでした。しかし、これはちょっと注意しないといけないかも…。持ってきていたクマよけの鈴を、よく鳴るように吊るし直します。

 でもって進むことしばし。30mほど先の藪で何やらガサガサと動きます。

 …えっ?マジで!?

Kuma2

 …ってことですか?

 しばし立ち止まり、様子をうかがいます。姿は見えませんが、ガサガサという音は、これから向かう道とは違った方向、森の奥へ遠ざかるような感じ。クマかどうかの確証はないですが(おそらくタヌキか何か?)とりあえずは一安心happy01念のため、しばらく休憩したあと、先に進むことにします。
 
P1000459

 事前の下調べで、鉄塔の下が水平歩道のスタート地点と聞いていたので、やっとスタートが見えた!と思ったら、まだ2本先の鉄塔でしたとさsweat01

 しばらくして第二すれ違い人発見。単独行で、阿曽原から来たとのこと。登山杖を2本ついてらっしゃいましたが、かなり楽そうでした。やっぱり買っておいたほうが良かったかも・・・。

 10:36 やっとこさ欅平上部到達。麓から1時間かかってます。

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 とうとう、来てしまいました…。ここからは道は水平。しかし別な注意が必要という、何というメリハリの利いた変わりよう。この登りはキツいです。逆方向のルートをたどる人が多いのも頷けます。む、すでに十分すぎるほど汗だくですsweat01

P1000463

 何はともあれ、水平歩道の始まり始まり…。

 で、歩道の様子ですが、

P1000467

 最初はこれのもっと広い感じで、道幅も割と広く、崖までの距離も若干余裕があります。余裕かも、と思いきや、

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 いきなりきわどい。やはり注意が必要です。また崖側にも樹木が茂っていて、谷側は見おろしにくいのですが、片側は確実に断崖です。ここのほうが寧ろ危ないかもしれません。

 11:11 最初の谷、蜆谷(しじみだに)に差し掛かります。谷の一番奥は短いトンネルでやり過ごしています。

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 えっ、北陸新幹線ってこんな山深い所通るの!?と一瞬思ってしまいましたcoldsweats01送電線の名前みたいです。

 蜆谷を出てしばらく歩くと、少し広くなったところで第三すれ違い人発見。お二人でしたが、単独行×2でした。うちおひとりのおじいさんは何と室堂から池の平を通ってこられたとのこと。ガッツ登山者です。負けます。偉いです。この先どれくらいかかりますか?などと色々情報交換します。

 それから、意外だったのですが、このあたりでもまだ欅平の駅のアナウンスや電車の警笛が聞こえるんですよ。もう2時間近く歩いてるのに…。谷あいにこだましているのかと思いきや、木々の隙間から何やら構造物がはるか下に見て取れます。あれって欅平駅でしょうか。急な山道+道がくねくねしているので、思った以上に直線距離では進んでいないようです。

 そしていよいよ、このあたりから片側が開けてきだします。

P1000472

 谷の向こうに1本の線が見えていますが、これがこれから向かう道。

P1000477

 そして、明らかに危険そうな箇所も一気に急増。慎重に歩きます。とはいえ…。恐ろしいことなんですが、慣れてくるんですよ。普通の感覚では絶対歩けないところを、ひょいひょい歩いています。この感覚が一番怖いのかもしれません。

P1000479

 この近辺では一番安心できるところかもconfident

 11:53 志合谷。深く切れ込んだ谷です。一番奥の部分にはまだ雪が残り、雪渓になってます。万年雪らしく、水平歩道はここを150mほどのトンネルでくぐり抜けています。

P1000482

トンネルは素掘りで、照明もないため、電灯を用意します。トンネル内は真上の雪渓から染みてきたと思われる水が溜まり、ものすごく涼しいsnow

 このトンネル内に、光を当てると光る(反射する?)コケのようなものが付着していました。正体は分かりませんが、なんだか幻想的です。

 トンネルを半分ほど過ぎ、もうすぐ出口…と歩みを進めるころ、向こうから明かりがやってきます。第四すれ違い人は、トンネル内でした。お互い「こんなところですれ違う人に会うとは(笑)」と苦笑しながら譲り合い。しかし考えてみると、外でのすれ違いでなくてよかったです。どこまで下がらないといけないか…。

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 志合谷のトンネルを出て少し下あたりです。比較的穏やかな光景ですが、道幅は案外狭く、危険度が高いかもしれません。このあたりの地下を、欅平から先に延びる関電上部軌道(専用線)が通っているはずです。そしてもうしばらく歩くと…。

 12:16 大太鼓。ついに来てしまいました。

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 大太鼓「展望台」って…coldsweats02このあたり、崖下には何もなく、谷底が丸見えです。下までは200mはあるでしょうか。今まで歩いてきて慣れてきたとはいえ、さすがにここは下を見るとスーッと背筋が寒くなります。向こうに見えるのは「高熱隧道」にも出てくる、宿舎が泡雪崩で吹き飛ばされて打ちつけられた奥鐘山です。小説を読んできてから改めて実物を眺めると、何とも言えない気持ちになります…。

 さて、とりあえず初期の目標は達成。あわよくば阿曽原まで…と考えていたのですが、ここまでの所要時間とこれから先の距離を考えると、到底日帰りは無理(阿曽原までは更に軽く1時間以上はかかりそうな距離。)。ということで、もう少し進みたい気もするのですが、ここを少し行ったところで折り返します。

(つづく)


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