2010/01/20

高熱隧道

 情けないことに、あまり本って読まなくなったんですが、今まで読んで印象に残った本などについて、ご紹介を中心につらつら書いてみようかなと思います。

 「高熱隧道」吉村昭著

 ジャンル的にはノンフィクションとフィクションの中間になるような感じだと思います。昭和10年代前半、日本電力(現在の関西電力等、各電力会社の前身となる会社)の黒部第3発電所建設工事について、工事課長藤平の目を通した形で著された小説です。発電所建設のための資材を運ぶトンネルを通すという工事でしたが、233名の人命が失われたという事実が、この工事の性質を如実に物語っています。

 この工事は難工事である上とても特異な工事でもあり、その最たるものがタイトルになっている高熱隧道、ということになってくるのですが、トンネルを通す区間には高熱の温泉湧出地帯があり、摂氏100度を超す岩盤を掘り進むというもの。坑内は過酷を極め、切端(トンネルを掘り進む先端)に装填したダイナマイトが岩盤の熱で自然発火するという、痛ましい事故が発生します。事故のようすが写実的に書かれ何とも言えない気持ちになります。

 加えて当時は(現在も、ですけど)人煙稀な黒部に出入りするということもあり、雪による災害に悩まされる様子が、こちらも印象的に書かれています。黒部という急峻な地形が生む、泡雪崩(ほうなだれ)という非常に破壊力の強い雪崩で、鉄筋の宿舎が丸ごと600mも飛ばされるという、信じられない事故まで発生します。改めて自然の脅威、自然の前では人間はこれほども非力であるということを、まざまざを思い知らされます。

 このように、この作品を端的に表すならば「自然とのたたかい」ということになるのでしょうけれども、その中にも人間模様、工事が進むにつれて藤平ら技術屋と、トンネルを掘り進む工事人夫たちとの微妙な関係・意識の変化が書かれています。

 あまりここで書いてしまうと読む楽しみがなくなるのでこのあたりにしたいと思いますが(笑)、何回か読みなおしました。しかもこの作品に出てくる高熱隧道、現在もちゃんとあり、関西電力の工事用トンネルとして立派に現役である、というのがまた驚かされます。100度を越したトンネル内の岩盤表面も、現在では導水管が引れているため40度程度に落ち着いているそうですが、坑内は硫黄のにおいと湯気が立ち込めているそうです。このトンネル、関西電力が実施する見学会で見学できるのですが、定員が少ない上に人気があるため、なかなか当たらないんですよね…。

 と、いらぬことを書いてしまいましたが、日本の電源開発史上も最も重要ともいえ、また最も苦難に満ちた工事について、書籍を通じて触れてみませんか。きっと読み応えがあると思いますし、新たな発見があると思います。

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